「お前のような化け物にうろつかれたんじゃ、落ち着いて生活なんできやしないんだよ!!」
「私が何をした?化け物的な姿で夜の町を闊歩したりした?人を殺した?」
「お前のその驚異的な破壊力をもってすれば、十分可能だ。不安要因はけしておくのが一番だ。」
「そうね。一理あるかもしれないわ。なら、あなたの後ろにいる人があなたを殺さない保障はあるの?得体の知れない相手であることに変わりないのよ?もしかしたら私と同じかもしれないのに。その人は不安要因には入らないのはなぜ?」
「そんなことは屁理屈だ。目前の化け物のほうが大きな不安だ。」
「人は不安になると何を言い出すかわからないものよね。私がいつ何時暴れだすかわからないというけど、いまどき肩があたっただけで刺してくるやつのほうがよっぽど怖いとおもうんだけど?通り魔とか変質者とかさあ。」
「何度も同じことを言わせるな!お前はいわば生物兵器だ。そんなものが近くにあるとおもうだけで落ち着かん。」
「人を刺したナイフは凶器だけど、果物のを皮をむいたり野菜を切ったりする包丁は便利な道具。お針子さんの針だって長針で目を指せば凶器よ。善悪は常に表裏一体よ。プラスマイナスが0で結ばれているのと同じ。10にマイナスを付け足せばー10に、−5からマイナスを取れば5に。常に絶対値は10だったり5だったり。そこに付加されるものによって変わるだけよ。私が持てる力で人を助ければスーパーマンに、犯罪を犯せば凶悪犯に。私に影響を与えるものが世間の私に対する評価を左右するの。あなたが私を殺人鬼と呼べば私は本当に殺人鬼になってしまう可能性も出てくる。」
「俺のせいにしようってのか!」
「私は誰も殺したりしてないのに何で殺人鬼呼ばわりされないといけないのかって言ってるの!自分の不安を消すために何もしていない私を始末しようというなら、あなたのほうがよっぽど殺人鬼じゃないの!」
「なんだと!お前は人間でもないのに何で俺が殺人鬼なんだ。」
「私も体は生身だから動物愛護だって適用内よ。」
「狂犬を殺したところで何の問題がある!」
「狂犬病は治療法もあるし、それが手をかむ前なら大問題よ。」
「・・・いいたいことはそれだけか。お前の屁理屈に付き合っている暇はないんだ。動物愛護?そもそもは人間かもしれないが、天地創造神々の与えた肉体を人為的に改造したような体のどこが人間、どこが動物だ。」
「ならアメリカやロシアが開発している殺人ウィルスは?生物でありながら兵器じゃない。ウィルスには人格がないから人権問題は関係ないけど。」
「お前の屁理屈に付き合っている暇はないといっているだろうが!!」


「人間って、・・・なんて醜いのかしらね。恐怖に駆られると、悪魔にもなれるなんて。人間に、私が人間でないと後指指されるほうがなんだか幸せに思えてくるわ。」
「それでも、人間でありたいのだろう?」
「人間でありたいっていうか、・・・そもそも人間の定義って何?」
「人間は、他者と関わり合いを持って生きているから人間なんだ。しかし、人はたいてい、人の形をしているものを人間とみなす傾向がある。本来はそれだけとはいいにくいのだが。」
「他者とかかわりを持たない人は人間ではないってことになるじゃない。」
「人間らしさにかけるというべきだろうな。人間から生まれたのだからやはり人間だと思うが。人間から生まれた人間として役目を果たさずにいるのは、非常にもったいないことだ。」
「役目って何?」
「人は生まれながらに何かしら役目を持って生まれてくるものだ。しかしその役目はその人が死にせまり、自分の生き様を振り返ったとき初めて知るものなのだ。その役目を生き急ぎながら知ろうとすること自体時間の無駄遣いということだ。」
「死に際にしかわからないから?」
「そうだとも。人間の母親から生まれて守られながら育ち、さまざまなことを学んで、大きくなり、人とのかかわりの中に学んだことに少しアレンジを加えて還元する。そうして少しずつ成長していくことが発展というものなのだ。人はそうして発展し今日に至る。人とのかかわりによって得たものを、独自のものを加えてまた人との関わり合いの中に戻す。そうすることによってさらに深く他者を成長させ、またその他者が同じように還元する。教師と生徒のような鎖のような仕組みが出来上がるのだ。」
「人間て、難しい生き物だったんだね。」
「だからこそ。こんなに複雑な思考を持って生まれたのではないだろうか?人は他者とかかわりを持って生きてきたことで、喜怒哀楽が生まれ、今のような感情というものが色濃く発達してきたのかもしれない。」
「・・・朱鷺さまの話は難しくて、頭がこんがらがっちゃう。」
「それが素直に飲み込めないのも、人間の脳が複雑に発達したからこそだと思うよ。長く延びた蔓は絡み合い、種があった場所もわからなくなってしまう。」
「原点が見えなくなってしまったてこと?」
「わかっているじゃないか。」
「でもやっぱり、私は人間が好きじゃないわ。言い出したらきりがないし、朱鷺様には全部言い返されちゃうから、細かいことはいえないけど。」
「それは、人間という生き物たちのサガを知ったから、いえなくなってしまったということだよ。お前も、わかるようになってきたということだ。原点を見つけることができるかもしれないね。」
「私が作り出された意味も?」
「お前は人でありながら人でないものとなった。だから、人の心がわかるままに、人という生き物を客観的に観察し、その結果を人々に伝えることができるということだ。しかしそれは、とても難しいことだよ。人は誰しも正気に戻りたくないものだからね。」
「正気に?みんな正気でないの?」
「今はね。生まれたときは誰でも正気のままなんだ。しかし、成長するにつれて、原点から離れてしまうから、いろんなことに惑わされて、原点を見失ってしまう。つまり、正気でなくなるということなんだよ。」
「原点を見失うことが正気を失うことなの?」
「原点こそが人の本質なのだ。その本質を見失うということは、人間が人間でなくなってしまうということ。つまり、人間は人間でありながら人間でないものになってしまうということ。」
「またわからなくなってきた。」
「言葉というものは難しい。誰かと共有できる感情や誰もが見ることのできるものでければ、ひとつの言葉でそれを表すことができないのだからね。今使われている言語のみでそれらを理解するのは同じような境地にあるものにしか不可能だろう。」
「やっぱり人間て難しい生き物なんだ。」
「そうだな。・・・わかっているものにとってはとても単純明快。しかしわからないものにとっては複雑怪奇だ。物事は常に表裏一体。」
「朱鷺さま?わざと難しくしなぁい?」
「はは、そんなことはないよ。沙耶、顔がハリセンボンになっているよ。」


「朱鷺様、娘がまたお世話になりました。」
「子供に人の成り立ちを説くのはなかなか難しいものだ。少し勉強になった。」
「・・・あの子の力は年を負うごとに強くなっています。もう、私たちで押さえられるものではありません。」
「力づくで押さえ込むのではなく、理解させるように努力なさい。そうしないと、その反発がさらにあの子に大きな力を与えることになる。魔女だの何だのと、特殊な力をもって産まれた子は、並みの人生は送れないというのはつき物だな。闇にまぎれなければならないのもうなずける。しかし、どちらがいいものだろうか。人として無理やり人になるか、または、人でない超人となるか。そういう力を持ったものには、どちらのほうが幸せなのだろうか。」
「・・・力の種類にもよるのではないでしょうか。私のように、ただ植物を育てるのがうまいだけの力と、あの子のように使い方しだいでは武器にもなるような力と。」
「勘違いしているな。この世のすべてのものは武器になる。小さな手ぬぐいも水を含ませて顔にかければ窒息させる。文字や絵を書く筆でさえ、柄で突けば殺せる。そこに生えている植物も、人の上に倒れれば人を殺せるんだ。すべて例外などない。何かに秀でているものの宿命だ。」
「あなたもそうだったのですか?」
「・・・私のときは、もっとひどかったよ。特殊な力を持つものは、とにかく排除されたからな。魔女狩りなど、手ぬるいほどに。」
「・・・すみませんでした。どうかこれからも、娘を導いてください。少しでも幸せだと思える人生を送れるように。」
「そなたが幸せというものを押し付けない限り、あの娘は幸せだ。もう少し考えてやれ。もう少し、言葉を聞き取ってやれ。」



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